はてなダイアリーでは「へぴゅーNT/というわけで(ry」だった何か。
まとまった文章が中心。日々の短文はmb(ryにあります。

conceit

今日は最近見た光景を適当に変形したものを置いてみます。

「和室8畳1泊2日」

サークルの先輩たち何人かと、とある旅館に合宿に行ったときのことだった。
部屋に通されるとそこは和室で、旅館の人は夕食の時間を告げると早々に去って行った。腕時計を見ると、夕食までは40分ほど時間があった。
夕食までの暇を潰すべく、部屋の隅に座りこんで本を読んでいたら、いきなりけたたましい音とともにふすまが開け放たれた。
見ると、小学校に上がる前くらいの小さな子供が、靴を履いたまま部屋にあがりこんできている。しかもその靴は泥だらけだ。
一体どこから?急になんでこの部屋に?という疑問は、その子のいきなりな大声でかき消された。
「あめがふって、くつよごれちゃった!ごめんね!」
靴の汚れには気がついても、畳に土足で上がってしまっていることには気づけていないようだった。
「はいはい、靴は汚れてもいいから、ちゃんと玄関で脱ごうね」
入口のそばに座っていた年長の先輩が、動じることなく抱きかかえるようにして部屋の外に出そうとする。すると子供はいきなり私の持っていた本を指差してまた叫び始めた。
「あー!そんなのよんでる!!わたしのおともだちのおにいちゃんは、もっとむずかしいほんよんでるよ!!」
「そう、それはすごいね、でもまず自分の靴を脱ごうね」
大人な先輩に連れられて子供が退場し、また静寂が訪れると、あっけにとられていた私はようやく我に返り、指をさされた本の表紙をまじまじと見た。少し考えてから、たとえいくら聡明な人間でも表紙だけで内容が判断できるわけがないことに気がつき、思わず苦笑した。
「あれ、何だったんですかね?」
「ん、何が?」
子供を退場させた先輩とは別の、私の一番近くにいた先輩は、耳元の音楽と手元の本に没頭していて一連の出来事にはほとんど気がついていなかった。手短にいきさつを話すと、一言、言った。
「子供だからしょうがないんじゃない?」
気がつくと、畳の泥は例の年長の先輩がほとんどきれいにしてしまっていた。


それからしばらくして、今度は部屋の外から、同じ叫び声が聞こえてきた。
「ねーねー、みんな、なにしてるのー?」
好奇心旺盛な子だな、と思う。さっきあがりこんで様子を見たのではなかったのか、とも思ったが子供にそんな事を言っても通用しない。また叫び声がする。
「あめなのに、わたし、みんなのかさ、もってこなかったの!ごめんね!」
それを聞いて、子供は大人が自分で考えて活動できる事を知らないのかもしれない、という考えが浮かんだ。自分が大人の指図や世話を必要とするように、大人もまた誰かの世話がいると思っているのかもしれない。もしくは、さっき靴の件で自分がされたように、今度は自分で指図や世話をしてみたいのかもしれない。そう思うと微笑ましい。
「はい、ずっとおへやにいないで、おそとでもあそびましょう!」
自分が考えている通りのことが起こって、微笑ましさが少し顔に出た。


手元の本にまた目を落としながら、あの子には遊び相手がいないのかな、とふと思った。もちろん一緒に旅館に来ている両親や親類はいるのだろうけれど、同じくらいの年齢の子供で、一緒に遊んでくれる相手はいないのかもしれない。だから一人で旅館を探検し、たまたま見つけた大人にかまってもらいたかったのかもしれない。それも、子供なりのやり方で気を引いて。
そう思うと、今までの出来事が全部納得できたように感じて、意識が急速に本の字面へと向かった。


そうして再び本に没頭するその直前、窓の外を見た限りでは、外で雨は降っていないように思えた。


※この文章はあくまで作りものであり、実際にこの通りのことが起こったわけではありません。


というわけで(ry